2023(令和5年)2月3日に所得税法等の一部を改正する法律案が国会(第211回)へ提出された。同法案には税理士法の一部改正として税理士法第54条の2(税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令等)「税務相談停止命令制度」の創設が含まれている。同法は「財務大臣は、税理士又は税理士法人でない者が税務相談を行った場合において、更に反復してその税務相談が行われることにより、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するため緊急に措置をとる必要があると認められるときは、当該税理士等でない者に対し、その税務相談の停止その他当該停止が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずることを命ずることができる」としている。
 また、税理士法第55条第3項を追加し、「国税庁長官は、前条第1項の規定(第54条の2「税務相談停止命令制度」)による命令をすべきか否かを調査する必要があると認めるときは、同項の税務相談を行った者から報告を徴し、又は当該職員をしてその者に質問し、もしくはその業務に関する帳簿書類を検査させることができる」としている。
 これらの法案は、下記の理由により自主申告運動への弾圧と結社の自由への侵害を招く危険性があり、申告納税制度の理念に反することから、その成立に反対する。

1.申告納税制度は国民(納税者)の権利

 国税通則法第16条第1項第1号で「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」とし、申告納税制度が原則であるとしている。これは憲法第13条の基本的人権の尊重(自己決定権)を税制面で担保した国民(納税者)の権利であり、国民(納税者)の自主的な申告と納税により租税の民主化を目指すことで、戦前の軍費調達のための賦課課税中心の租税体系からの脱却と反省による国民主権原理の実現を目指すものである。
 すべての納税者が自らの所得と税額を確定させるには、税制は分かりやすいものでなくてはならない。しかしながら実際は複雑・難解であり、すべての納税者が適正な申告を実施できる制度とはなっていない。このため税の専門家である税理士が納税者の依頼を受けその事務を代理することが制度的(税理士制度)に確立されてきた。
 税理士業務(税務代理・税務申告・税務相談)を業として実施する税理士へ申告などを依頼するには経済的負担が伴う。このため小規模な事業者や一般の納税者は税理士へ依頼することが困難となるが、そうした納税者は、税務官公署の相談窓口を利用するか、申告者同士の自主記帳・自主計算・自主申告のための無償の相談活動を利用することで、自らの所得と税額を確定し申告納税制度の実現を図ってきた。こうした無償の相談活動は広く行われており、これらの活動は報酬を得ることを目的として実施されておらず、結社の自由(憲法第21条)のもとに構成された団体内部での活動の範疇に属する言わば共助活動として扱われ是認されてきた。

2.税理士法は自主申告運動を弾圧するためのものであってはならない

 税理士法第1条(税理士の使命)では「申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と規定している。申告納税制度の理念とはまさに前述したとおり「自らの所得と税額を確定させ、自ら申告する」ことであり、税理士はその援助者として他人(納税者)の求めに応じて税理士業務を行うことを業とする。
 また、税理士法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。」と規定しており、税理士等でない者が税理士業務を行うことを原則禁止しており、税理士法基本通達2-1では「業とする」とは、税理士業務を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しない」としている。
 これらの条文や通達から税理士業務は税理士の無償独占であると一般的に言われているが、現実には無償で税理士業務を行う税理士がどれほどいるであろうか。無償で行われるのは、行政サービスの一環として税務官公署窓口で実施される相談であり、前にも述べた自主記帳・自主計算・自主申告により申告納税制度の実現を図るために、結社の自由の下に構成された団体内部での活動として実施される相談活動であろう。
 申告納税制度は国民(納税者)の権利であり、こうした国民主権原理の実現を目指す自主記帳・自主計算・自主申告並びにそのための「助け合い・教えあい」を実践する団体の活動を妨害するものであってはならない。
 こうした意味では民主商工会事務局員の税理士法違反が問題とされた倉敷民商事件(最高裁2018年5月29日判決)は、税理士法が弾圧に利用された悪しき例であると言える。すなわち、民主商工会の事務局員が手伝って作成された確定申告書類は「課税の適正」は害されていないことが認定されたにもかかわらず、税理士法第52条違反として有罪とされている。申告納税制度の実現に貢献するこうした事案を税理士法違反として取り扱うのであれば、税制における共助は成り立たず、公助として受け入れる体制が整っていないのであれば、それは税務行政の怠慢である。
 さらに「税務相談停止命令制度」が成立すれば、財務大臣の恣意的判断により憲法第21条が保障する結社の自由に基づく団体における「助け合い・教えあい」といった共助活動への規制が強化される危険性が増大することとなり、税制の民主化に歯止めがかかってしまう。

3.法を用いるのは立法者にあらず

 財務省は、「税務相談停止命令制度」創設の背景について「コンサルタントを名乗り、SNSやインターネットでセミナーを開き、脱税や不正還付の方法を指南して手数料を取るなどの事例が散見される。納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼす相談活動を防止するための措置が必要」と説明している。しかし、こうした脱税や不正給付の指南者は現行法下においても法人税法違反などで逮捕等の法的措置が可能である。
あえて、前述のとおり申告納税制度の実現に広く貢献する自主申告運動や結社の自由を妨害するような危険性を内包する「税務相談停止命令制度」を創設する必要性はない。
 過去の歴史を振り返れば、1925年に制定された治安維持法(共産主義者を取り締まるための法律)が、太平洋戦争を目前に控えた1941年には、国家の方針に従わないという理由だけで取り締まれるように変貌し、多くの犠牲者を生みだしてしまったことが挙げられる。こうした悲劇は治安維持法が立法される際、次のような指摘によりその危険性について説かれていたことは、「税務相談停止命令制度」についても言えるのではないだろうか。

 「…私は決して共産主義でもなく、決して無政府主義でもございませぬが、尚ほ此法案を惧(おそ)れるのでございます、特権階級中の特権階級である我々が、本案に遽(にわか)に賛成いたさない意思を表明いたしまするのは、余程勇気を要する次第でございます、併(しか)し敢えて茲(ここ)に私がそれをいたしまするのは、或いは此事が杞憂かもしれぬ、又杞憂であれば誠に幸と存じますが、本法実施の暁に於きまして、治安維持の目的が、却(かえつ)て反対の結果に陥りはしないだらうかと云ふことを、私は惧れるのでございます、…之を立案いたしました方、立法者に於きましては成程、明瞭で以て何等の疑を挟む所はございますまいが、之を実際に用ゐますのは立法者ではございませぬで、又必ずしも立法者と同じ心を持って居る者ではないのでございます、実際、此法を用ゐます者は裁判官でも至って少いのでありまして、多くは警察官でございます、必ずしも之を誤って用ゐることなしとせないでございます、外の法律と違ひまして、峻厳極まりないものでございまするが故に、一たび誤って用ゐました其結果は誠に恐ろしいものでございます、…」

(1925年3月19日、貴族院、徳川義親侯爵)


 以上、所得税法等の一部を改正する法律案における税理士法第54条の2(税理士等でない者が税務相談を行つた場合の命令等)「税務相談停止命令制度」の創設に断固反対する。

2023年2月28日 東京税経新人会 幹事会一同